新型コロナウイルス感染拡大による事業環境の大きな変化を追い風に成長するネットショップ業界で、「STORES.jp」との二強を形成している「BASE」(4477)。テイクアウトニーズによる飲食セクターの出店増にもすばやく対応し、顧客増とともに伸びるネットショップならではの動きの良さをみせています。
一方で、決済サービスのPAY事業の停滞や、BASE、STORES.jp、カナダからのEC業界の黒船「Shopify(ショッピファイ)」をまじえた「ネットショップ三国志」の推移といった経営課題もあり、こちらも目配りしておきたいところです。
2020年12月期第3四半期決算で注目すべき点を取り上げました。
目次
第2四半期までの売上高は前年同期比118.2%増、営業利益は黒字回復 ネットショップ「BASE」と決済サービス「PAY」の2つのセグメントの違いは? コロナ禍で奮闘するBASE、顧客支援を強化し大幅売上増に。今後はM&Aに重点 ネットショップというレッドオーシャンを勝ち抜く戦略に注目 BASEをはじめとする急成長のEコマース関連銘柄をチェック
第2四半期までの売上高は前年同期比118.2%増、営業利益は黒字回復
2020年11月に予定されているBASEの2020年12月期第3四半期決算発表に先立ち、第2四半期までの主な経営指標と事業展開、注目すべきポイントについておさらいしておきましょう。
20年8月14日に発表された20年12月期の第2四半期決算(20年1月1日~20年6月30日)における売上高・営業利益は以下のとおりでした。
売上高は2倍以上の伸びを見せ、営業利益は前年同期の-1億3,567万円からの黒字回復。非常にめざましい進捗を示しています。売上高営業利益率も前期の-8.0%から16.6%へプラス回復となりました。
事業別に見ると、ネットショップ作成サービスのBASE事業が著しく成長していることがわかります。
一方、オンライン決済サービスのPAY事業については、売上は増加したもののセグメント損失が続いています。
20年12月期の通期連結業績予想では、前回発表予想と比較して、売上高は75億2,000万~81億円と約4割強の増加を見込んでいます。営業利益は0円~5億円と前回発表予想のマイナス想定をくつがえし、最大で約9倍もの増加を見込んでいます。
下半期の想定も含め、今年度の好成績に自信満々といったところです。
20年9月24日には、広告宣伝費・運転資金の調達などの目的で、欧州・アジアを中心とする海外投資家を対象に新株式発行(増資)を行いました。
約118億円を調達したことで、既存株主は6%弱の希薄化(EPS(1株当たり利益)の減少)となりましたが、ここ数カ月の株価の値動きに照らせばこの程度の希薄化は大きな問題ではないと考えられ、成長資金の調達は歓迎すべきといえます。
株価は第2四半期決算発表時点(20年8月14日)で7,170円、時価総額は約1,552億円でしたが、11月6日時点で株価は13,100円、時価総額は約2,704億円まで上昇しました。
ただし10月8日にいったん15,930円の最高値をつけており、現在は下落基調にあるとも見ることもできます。10月8日以降に経営的なニュースが何かあったというわけでもなく、センチメント(市場参加者の強気・弱気などにおける市場心理)の移ろいによる投機的な値動きが続いていると考えられます。
ALTalk「BASEの指標」 より
ネットショップ「BASE」と決済サービス「PAY」の2つのセグメントの違いは?
BASEの業績をセグメントで見ると以下のとおりとなります。
売上高の89.0%、営業利益の126.6%(他の事業がマイナスのため)を占めるコア事業がBASE。初心者でも簡単にデザイン性の高いネットショップを無料で作れるネットショップ作成サービスと、そこで開設された店舗の商品を購入できるコンシューマー向けのショッピングアプリ等を提供するEコマースプラットフォームを展開しています。
BASEでは、「GMV」(Gross Merchandise Value/流通総額)を事業の成長を測る指標として重視しています。
新規顧客の開設効果と既存顧客の売上増の合計であるGMVを、戦略立案や施策のKPI(重要業績評価指標)とするのは妥当であり、GMVの伸びは新規顧客となるネットショップ開設を検討する層へのマーケティングにも有効といえます。
コロナ禍によりリアル店舗から消費者の足が遠のくなか、Eコマース市場への需要が高まり、新規ショップ開設数およびGMVは大幅に増加しています。
GMVが前年同期比196.5%もの伸びを見せたのは、BASEと顧客の双方がかみ合ったビジネスモデルが理想的に成長したものといえるでしょう。GMVの伸びには既存店の成長だけでなく、ショップの新規開設(20年12月期第2四半期のショップ開設数は前期比で229%増、前四半期比で159%増)も寄与しています。
PAY事業は、既存のWebサービスやネットショップ(BASEで開設されたものでないショップ等)にクレジットカード決済を導入するための開発者向けオンライン決済サービスです。スタートアップやベンチャーといった新興企業に対して重点的にマーケティング活動を進め、安価な手数料を武器に加盟店数の拡大に取り組んでいます。
一部のオフライン事業(リアル店舗)を営む既存加盟店(スポーツ関連、インバウンド関連等)のGMVが20年2月以降に大幅に減少したことが、20年12月期第2四半期の業績停滞につながりました。
新型コロナウイルス感染拡大があらゆる業態のリアル店舗にダメージを与えたことがBASEにはプラス、PAYにはマイナスに働いたといえます。
今後の両事業の成長を占う施策について続けて見ていきましょう。
コロナ禍で奮闘するBASE、顧客支援を強化し大幅売上増に。今後はM&Aに重点
新型コロナウイルス感染拡大がもたらした新しい消費のかたちは、引き続きBASEへの追い風となります。
外出機会の減少に伴うリアル店舗からEコマースの移行、従来の顕示的消費から巣ごもり型消費への移行はこの数年で消費者の態度を変化させるでしょう。とくに価値観の形成期にある若年層への長期的な影響は甚大です。
総務省統計局が行っている「家計消費状況調査」によれば、「2人以上世帯におけるインターネットを利用した支出額」は、2015年10月の7,719円から2020年9月には15,981円へと大きく伸びています。インターネットを利用した世帯の割合も49.9%に達しています。
今後も比較的Eコマースの利用率が低い高齢世帯から下の世代への相続・贈与等による所得移転が続くため、ネットショップ業には強い追い風が続きます。当然、BASEの決算発表にも期待がかかります。
このような消費構造および顧客の事業環境の変化に迅速に対応すべく、BASEはさまざまな取り組みを行っています。
●あらゆる事業者の事業の継続をサポートするための支援を実施(ネットショップ開設支援、お急ぎ振込の手数料無料化、発送前商品の売上金引き出しサービス、オンラインセミナーの開催、集客支援等)
●アパレルや食料品を販売する実店舗のオンラインシフト、物産展等の催事の中止の影響を受けた食品卸業者や営業自粛をした飲食店の開設を増加
●飲食店による開設の増加に伴う新たなニーズへ対応するため、テイクアウトアプリをリリース
●サーバーの増強及びCS業務の体制強化の実施
ここで、消費者側の動向を示すBASEのアプリダウンロード数の推移を見てみましょう。
ALTalk「BASEの指標」 より
年間で見ると、アプリのダウンロード数は、巣ごもり需要の影響で4月以降に急増し、5月18日時点で39,041件とピークを迎えますが、11月第1週には13,720件まで落ち込んでいます。
ただし、11月13日に発表される決算の期間(7〜9月)は、コロナ前の水準と比較して上昇トレンドであることに変わりはありません。
Web訪問数についても、下図のとおり順調に増え続けています。
ALTalk「BASEの指標」 より
PAY事業では、引き続きコストの抑制を図りつつ、プロダクトの強化と加盟店数の増加に努めGMVの成長を目指すとしています。
前述した20年9月の増資では、資金調達の理由という形で今後の重点項目が明らかになりました。
(1)BASE事業のGMV成長を加速させるための広告宣伝費 (2)プロダクト開発力の強化のための人件費および採用費 (3)GMV拡大及びショップのキャッシュフロー早期化支援に伴う運転資金の増加への充当 (4)M&Aおよび資本業務提携
国内のネットショップ作成サービスはBASEとSTORES.jpの二強体制で寡占に近い状態となっていました。しかし、2018年にカナダからのEC業界の黒船「Shopify」が上陸し、ローカライズ(ある国に向けて作られた製品やサービスを他の国でも使えるようにすること)を急速に進めています。
BASEで開設されたネットショップ数は2019年8月に80万店に達し、2020年9月には120万店を突破と急速な成長を見せています。
競合であるSTORES.jpとShopifyは出店数を公開していません。Shopifyは2019年10月にグローバルで100万店を突破というアナウンスを行ったことから、日本国内の出店数はいまだBASEには大きく及ばないと考えられます。
コロナ禍で変化した事業環境への対応もこの半年で提供者・顧客とも急速に進み、今後は利用料・使いやすさ・集客支援といった本来のスペックとカスタマーサービスを舞台とした競争の激化が予想されます。
ネットショップのレッドオーシャンを勝ち抜くため、このタイミングで広告宣伝・ヒューマンリソースを拡充し、スケールを維持・拡大する戦略は納得度が高いものです。
加えて、今後の成長を占ううえで注目なのがM&A(合併と買収)です。すべてを内製で開発するのではなく、外部との連携の強化・拡大によって、効率的に利便性の高い機能やサービスを提供していく体制を整えることを目的としています。スピードが求められるこの局面で、内外に広く成長の芽を求めていく積極的な姿勢には期待が持てます。
ネットショップというレッドオーシャンを勝ち抜く戦略に注目
BASEは20年12月期第2四半期決算で通期目標を大きく上方修正しています。第3四半期までの進捗とさらなる通期目標の修正があるかどうかをチェックし、経営陣の自信を確認しましょう。
第2四半期決算では、主力のファッションカテゴリが全体に占める割合は減少しましたが、同カテゴリのGMVは前年同四半期比で124%も増加しました。食べ物・飲み物カテゴリのGMVが前年同四半期比で1,087%の大幅増となり、同カテゴリの構成比が大きく増加したためです。
ネットショップという新しい取り組みにチャレンジする飲食店への有効な支援を継続できるか、状況を見据えた施策を打てるかに注目が集まります。
PAY事業はコロナ禍で成長が止まっています。リアル店舗の決済需要が減少しているため仕方ない部分はありますが、経営陣による今後の見通しと打開に向けての取り組みを確認したいところです。
コア事業としてのBASEは重要ですが、事業セグメントの分散も同様に重要であり、急務といえるでしょう。
BABEとSTORES.jpとShopifyによる「ネットショップ三国志」はまだまだ続きます。レッドオーシャンを勝ち抜くための戦略を経営陣がどのように考えているか、株価を支えるストーリーとしてはこの点が最重要です。
BASEをはじめとする急成長のEコマース関連銘柄をチェック
Eコマース関連企業の今期本決算予想を確認します。
モバイル部門の投資がかさむ楽天を除き、いずれの企業も増収増益を見込んでいます。BASEの経営陣の自信を裏打ちするデータといえそうです。
BASEの株価指標は以下のとおりです。
BASEの株価は1株当たり利益の約713倍というきわめて高い評価を受けています。
そもそも20年年初来の安値が3月16日の867円、高値が10月8日の15,930円と、その差は15,063円に及びます。つまりBASEの株価は、ファンダメンタルズを冷静に勘案して形成されたものとは到底いえませんが、超成長株投資とはそういうものです。
今後の急速な利益成長と、事業拡大による投資家の期待増大に賭けるフェーズであり、超成長株投資を行っている自覚と冷静さをもって第3四半期の決算に臨みましょう。
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参考資料
2020年12月期第2四半期決算資料
四半期報告書
四半期決算短信
業績の修正に関するお知らせ
新株式発行による資金調達について
海外募集による新株式発行に関するお知らせ
海外募集による新株式発行に係る発行価格等の決定に関するお知らせ
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